いざバンクーバー(2)

ソーシャルイノベーションのヒントを求めて


「クリス・コリガンのAoHに出てみたい!」

ほぼそれだけで、太平洋をひとっ飛びやってきたAoH。

とはいえ、そうまで思ったのは探しているものがあったから。

探していたものとは、ストラテジック・カンバセーション(直訳は戦略的対話ですが、社会や組織に変化を生み出すための対話といった意味)を、どうつくり実行していくのかと言うこと。

つまり、コミュニティ、組織、そして社会で、正解のない複雑な問題に、本質的でwin-win-winな解決策を生み出すにはどうしたらよいのか。それを、どうすればもっと効果的に支援できるのか。

そのヒントを探していました。

そして、様々な分野でストラテジック・カンバセーションのプロジェクトを行い、コミュニティや組織で変化を生み出してきた経験を持つクリスなら、私の探しているものを持っているかもしれないと思ったのでした。

さて、彼と彼の信頼する同僚たちの提供するAoH。

その全体的印象を一言で言うと、「現場で使えるAoH」、「AoH実戦編」。

私も初めてAoHに出会ってからそろそろ10年…

AoHのプロセスを設計し提供するホストの役割もいくつかのトレーニングで務め、その学びをベースにした対話や学びの場も数多く提供してきました。

私の知っているAoHはカールスクローナ(スウェーデン)で行われているものが原点。また日本で開催されているAoHの多くも、その影響を大なり小なり受けたホスト達によって開催されてきました。

カールスクローナのものは、それはそれはカラフルで、音楽や踊り、動き、そしてワクワクするようなグラフィックに溢れている。

一言で言うと右脳全開な感じ。当時、かなり左脳優位な人間だった私には、かなり刺激的でエッジの効いた体験でした。

ヨーロッパのみならず、世界中からサステナビリティやソーシャルイノベーションを学ぶ若者が集まり、3泊4日のトレーニングを行う。

そのエネルギーたるや、もう爆発的なのです。

これまでのコンフォートゾーンを相当飛び出し、洗濯機でぐるぐるとかき回されるような体験でした。そして言葉にはならない深いところで、わたしの何かを変えたのでした。

カルスクローナのAoH振り返りのマインドマップ(当時のもの)

これまで日本で開催されているAoHの多くも、その影響を受けているのは前述の通り。

自分のあり方を深く試される安全だけど容赦のない場。そして、コミュニティ、組織、社会といったレベルで変化を共に生み出すポテンシャルにあふれている。

ロジカルシンキングやデータ、仮説検証、言語的表現、分析など人間の左脳的な側面が、どちらかというと重視される今の社会。そこに言語にならないもの、データやロジックで捉えきれない感情、感覚、思考を、音楽や動き、グラフィックで可視化する。そうしたものも対話に活かせるようにする試みとも言える。

人間の多面性と多様性を認め、活かそうとする場。

グローバル化し繋がっていく世界で、共に生きていくうえで大切なことが沢山詰まっている。

ただ、そのまま現場に活かすのはハードルが高いというのは、率直な感想でした。

ところが、今回のAoHは実戦向きなのです。派手さやキラキラ感はないけど、確実に仕事はしてくれるいぶし銀のようなAoH。

「コミュニティ、組織、社会といったレベルで変化を共に生み出すとは、どういうことなのか?」

この問いに対する、明確な概念と理論、経験、そしてホストのあり方が、そこにはありました。

そしてこれを可能にしたのは、クリス・コリガンが中心にいたからこそ。

(あ。あくまで私の主観です。)

「今の日本にクリスが欲しい!」

「クリスみたいな人間性とストラテジック・カンバセーションをホストするスキルを持った人が日本に沢山いて、それぞれの現場で始めたら、日本が直面する問題の多くが前に進み出すかも。」

彼らのつくる場に居ながら強く思いました。

クリスの何がそんなに響いたのか?

ざっくり言って3つ。

まずは、彼の存在、在り方そのもの。具体的にいうと、人はみんな平等で平和に暮らせるべきだと心から信じて行動しているところ、嘘がないところ、子どもみたいに無邪気で楽しいところ。同時に、極めて論理的・合理的・戦略的なところ、オープンなところ、いま・ここに在る力。こうしたところが、渾然一体となって醸し出される存在感。

二つ目は、圧倒的な経験値。その経験値から出てくる具体的事例の豊富さと知見、そこから生まれる説得力。

三つ目は、複雑な話を分かりやすく楽しく説明する能力。社会や組織といった複雑で生きたシステムの振る舞いや特性、それを踏まえてどう効果的に刺激し、望ましい方向に動かしていくのかなどなどを、聞き手を引き付けながら、すっきり分かりやすく説明する能力の高さ。

とりわけ最終日のLarge Scale System’s Changeの話は、印象的でした。

話の対象となったlarge scale system(大規模なシステム)は、例えば郡レベルの医療制度、ブリティッシュコロンビア州(カナダ)の先住民族のための児童福祉制度、食のシステム、と言った規模感のもの。

社会制度やシステムといったものは、要するに人間の集団。社会そのものも、人の集団の大きなものとクリスは言う。

また、わたし達一人一人は複雑系であり、複雑系である人が集まってできたもの(コミュニティ、組織、社会)もまた複雑系だと。

複雑系は、環境の変化に応じて常に変化する生きたシステム。

この複雑で生きたシステムは、フラクタルな構造を持つ。そして、その構造をつくる要素どうしの関わり合いからシステムの振る舞いが生まれる。

分かりやすい例をあげれば、それが組織なら組織をつくる人たち同士の関わり合い方が変化すれば、組織としての振る舞いも変化する。そして、人の関わり合い方を手っ取り早く変えるには、物理的空間(例えば、机や椅子の配置、動線など)を変えればいい。

人や人の集団の性質や行動の特性を踏まえたうえで、人の集団というシステムにどのように関わり、望ましい方向への変化を促すのか。

そのための場や機会をつくる立場の人間として、どんな考え方、スキルそして姿勢が必要とされるのか。

コミュニティや組織、社会を本質的に変えるということの全体像を、そのベースとなる概念や理論、沢山の事例を紹介しながらの70分強は、あっという間でした。

さてさて、そんな彼からトレーニングの間繰り返し聞こえてきた言葉。

“needs & purpose” 「ニーズと目的」

needs & purpose、needs & purpose、needs & purpose…一日に三回は聞いた気がします。

当事者に呼びかけ、差し迫った課題について、その解決を目指し一堂に会して意義のある話し合いをする。それを効果的に行うに当たって、ニーズと目的がどれだけ大切なのかということ。

“Make your process fit the needs.” 「プロセスを、ニーズに合わせること。」

そこにいる参加者が必要としていることと、その場で提供されることがずれていれば、本質的で深い話し合いであったり、深い学びといった、目的とする結果が得られないということ。

反対に、そこがぴたりと合った時には、自然発生的に新しいプロジェクトや取り組みが生まれたり、人生を変えてしまうような学びなど、目的とする成果、時にはそれ以上の何かが得られる。

場の設計をしたことのある人ならば、当たり前のことかも知れない。でも自分の思いが強すぎたり、主催者の思い入れがありすぎたり、様々な理由でそこにある場のニーズを見過ごしてしまうことがある。そして、それは気が付かないうちに起こり、場の不協和音として現れる。

ある時、そんな不協和音な場を体験した。それはもう不可抗力的に起きたことだった。

その時は、場のプロセスをつくる側の一人だった。私たちは、主催者のニーズと目的にプロセスを合わせていたものの、目の前にいる参加者のニーズに合わせるのに時間がかかってしまった。

主催者側のニーズと目的、そして参加者のそれがずれているという感覚が共通認識となるまでに、時間がかかったためだ。

それに気づき、そこにいる参加者のニーズに合わせてプロセスを修正した後の、場の空気感とパワーはまるで違うものとなった。

こんな比較的最近の経験から、彼の言葉がより身に染みたのだと思う。

“We are complex system. Complex system is fractal.” 「私たちは、複雑系なんだ。だからフラクタルなんだ。」

私たち、一人ひとりは複雑系で、複雑系である私たちが集団となったコミュニティ、組織そして社会(大きな人間の集団)もまた複雑系。複雑系は、系全体のパターンが入れ子のように細部に現れるフラクタルな構造。また細部のパターンと同じパターンが、より大きなスケールで現れる。

こんな感じ!

そしてパターンは、部分を構成する要素の関係性、要素同士のやりとりの仕方から生まれる。

だからこそ、コミュニティ、組織、社会に望む変化を生み出すには、その取り組みの中心となる存在・チームが、望む変化を体現するものである必要があるということ。

まさに、Be the change! というガンジーの言葉そのままです。

ガンジーの社会変革の行動がなぜ絶大な影響力を発揮できたのか、複雑なシステムの特性と振る舞いから読み解いた、インドの経営学者の論文があります。その要点は、このクリスの言葉に集約されています。

とっても面白いので、これはまたの機会に。

また複雑系と私たちについては、タオ自然学で有名なカプラ博士のオンラインコースをベースに、自然科学の観点から解説したブログ記事を上げているので、より深く知りたい方はそちらもどうぞ。

ーーー閑話休題ーーー

そして最後に…

“Be fully present, and absolutely invisible!” 「全身全霊で場に気を配り、その気配を完全に消すこと。」

この言葉も期間中、三回は聞いた気がします。

全身全霊で場に気を配り、その気配を完全に消すこと。

それをするからこそ、場を創り支える人間は、当事者たちにとって最適で本質的な変化が生まれるような、全員参加型の場を創ることが出来るのではないか。

主役は、あくまで当事者。

様々ある当事者の思いや意見を、無理やりまとめることなく引き出し、それぞれを尊重する。だからこそ、そこから生まれる新しい考えや取り組みは、本音のものとなり、それに対する愛着とやる気が生まれる。新しい考えや取り組みは、やがて新しい振る舞い、変化としてコミュニティや組織や社会に定着していく。

こんなことを感じさせられました。

というわけで、かなり長くなってしまいました。が!

ちょっとでも自分のいる現場を、コミュニティを、社会を、より良いものにしたいと思っている人には、一度は彼のあり方、情熱、遊び心、スキルと経験と知識に触れてみて欲しいと強く感じたバンクーバーはBowen島への旅でした。

もし幸運にも彼と出会い、学ぶことがあったら、当事者たちを主役に、望む未来へと誘う黒子的な新しいリーダーの、あり方とスキルセットが見つかるかも知れません。

そして、そうなりますように!

おまけ:

AoHをより詳しく知るための超いけてる動画トップテン。

まずは、3と7がオススメです。

いざバンクーバー(2)

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